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冬のように生きても 黄金の船は来る 声を忍ばせて…

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広場で


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交通・交易の要所に位置したこの街には豊富な物資が集まり、毎日開催される市はいつも多くの商人や旅人達が訪れて栄えを見せている。

人ごみで進むも戻るも困難な道を、青年は器用に人を避けながら小走りに駆けていた。

街の中心にある広場まで辿りついた青年は、吸い寄せられるように真ん中に建つ塔へと目を向ける。
街のどこにいても見える塔は絶好の待ち合わせスポットになっていて、沢山の人待ち顔な者達が立っていた。

塔に沿って吹き降ろしてきた風が頬を打って、目を細める。
ふと思いついたように視線を落として右、左…と目を走らせる。…と、そこに見知った人物――以前別れたときと寸分変わらぬ姿の彼が、ぼうっと上向いて塔に寄り掛かかっているのを見つけて、青年は思わず声を上げた。

「セスっ!」

一拍おいて、彼の目が正確に声を上げた主へ向く。
碧い双眸が驚いたように大きく見開かれた後、すぐに柔らかい笑みへと形を変えた。

「キリル」
「久しぶり! 元気そうでよかった」
「キリルも相変わらずなようだね。久しぶり」

握手と共に互いの無事を喜び合った後、キリルはセスの隣に移動して同じように壁に寄りかかった。
走り続けて弾んだ息を整えるキリルの目の前に水筒が差し出される。

「有難う」

ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らして水を飲み下して一息ついたのを見て、セスが口を開いた。

「あの人ごみの中をよく走って来たね。
 約束していた日にはまだ間あるし、そんなに急ぐ必要もなかっただろう?」

再会を約束をした場所は、確かに街のシンボルでもあるこの塔の下で間違いないが、日は半月近く先だ。

「だから、さっきキリルに声を掛けられた時は驚いたよ」
「それを言ったらセスだって随分と早い到着じゃないか」

切り替えされて、セスは困ったように目線を彷徨わせたあと、顔を上向けた。
最初に見つけたときと同じ姿勢に戻ったセスを追うように、キリルも目線を上げる。

「前は、間に合わなかったから」
「そうだったね」

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 20年前もキリルとセスはこの地での再会を約束していた。
 しかしその時、約束が果たされることはなかった。

 

「昔は、この塔の天辺に鐘があったね」
「戦火で町の建物ほとんどが焼け落ちたと聞いたから、塔だけでも残ったのは奇跡的なんじゃないかな」

..

 約束の日の数週間前に、街道の街は隣国の戦渦に巻き込まれて焼けた落ちたから――

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「しばらくは街道周辺の国々も混乱していたから、俺が街に入ることが出来たのはひと月も後だ」
「あの時は、結局セスとは会えずじまいだったね」

駐屯する兵士の目を避けるように夜の都市に潜り、静けさの中で、変わり果てた街の姿を目にした。
煙が燻る街の残骸の真ん中、広場で
唯一残っていた、見守る街を、頂の鐘を喪った塔。

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 何十年、何百年と
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 これまで、いくつも見てきてた
 これからも、いくつも見ていくのだろう

 ――栄えてもいつかは破壊される世界、

 ――  終局の時、 滅びゆくもののすがた

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「だけど20年でここまで復興するとは…びっくりしたなぁ。
街に足を踏み入れたとき、来る場所を間違えたかと思って、思わず塔を探しに走ってしまったよ」

「塔は昔のままだったから、ようやく間違いじゃなかったって信じられたんだ」
キリルが駆けて来た理由を白状すれば、「実は俺も同じ事をしたんだけど…」と、セスも頬を掻いて言う。
顔を見合わせ、二人は弾けるように笑い出した。

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 何十年、何百年と
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 これまで、いくつも見てきた
 これからも、いくつも見ていくのだろう

 ――破壊されても 再生される世界、

 ――  新生の時、 繁栄してゆくもののすがた

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「さて。二人とも予定より早く到着して時間もたっぷりあるし。積もる話をしようよ、セス」
「そうだね。 まだ日も高いし、先に宿を探して荷物を預けて、もう一度市場に繰り出すのは?」
「良いね!確か来る途中に宿屋が集まる道を通ったから…」
「じゃあ、案内頼むよキリル」

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言葉を交わしながら、二人は塔に背を向け歩き出す。

賑やかな雑踏へと入っていく背後で、ごおぉぅん…と
鐘を喪った塔の天辺を通り抜ける風の音が広場に響きわたった。

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..

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 +++おまけ+++

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「はい、これ。セスに貰った地図、凄く役に立ったよ」
「それはよかった。俺も君に貰ったのを返すよ。 っと、大分書き込みが増えているな。随分と遠くまで足を伸ばしたんだ」
「わぁ。相変わらず綺麗に書き込むなぁ。 セスに渡すと地図がより精巧に、読みやすくなって戻ってくるから助かるや」
「そう?ありがとう。  こっちもキリルに渡した地図はとても個性的にアレンジされて返ってくるから楽しい」
「…ええと。取り敢えず、よかった…の、かな?」
「うん」

「あ。セスに渡した方の地図、また饅頭屋さんのマークが増えてる」
「……(視線あっち→)」

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我が家のキリルと4主は各々自由に旅をしながら、約束を交わして時折会っている設定です.
何処かの国に長期・短期滞在するも、流浪するも自由な旅の身の二人.
旅の行程や置かれた状況によっては到着が遅れるのはよくあることで.
手段が無くてやむなく連絡を入れられない場合もあり.
そんな時は自分の旅を再開するとのルールを交わしているので、実際、会わず仕舞いで.
お互いの旅に戻った事も何度もあるのですが….

ちなみに再会する度、旅で使って色々と書き込んだ地図を交換しあっています.
(おまけ参照/笑).

07/7/28


 

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