** *** *** ―――君が話してくれた “ 海 ” を 見たいと思った *** *** *** ** ***Crossing :0 * *** あてどない旅を始めて一年と数ヶ月。 「……この本は」 小さく声を漏らしたシュリを、側で本を物色していたグレミオが振り返る。 「ぼっちゃん?」 主人が手に取るには珍しい類の本で、グレミオが不思議そうに呼びかける。 「グレミオ。これは僕も持っている本だ」 示された題名を見て、グレミオは「ああ」と肯いた。 「 『わだつみふね』――坊っちゃんが小さい頃好んで読んでいた、海を舞台にした冒険物語の絵本ですね」 グレミオの言う通りで、表紙はシンプルに青一色の上に題名が書かれているだけ。中に使われている挿絵もシュリが所持するものとは違うし、何よりも、シュリが好きだった扉に描かれた主人公の絵がない。 *** 「家にある」という言葉に、ふと思い至る。 ……そういえば、この本は親友に貸したままになっていた筈だ。 ずくりと、胸の奥に鈍痛が走った。 本を貸した後しばらくして起こった怒涛のような出来事に流されすっかり本の存在など忘れていたが。もう親友の――テッドの手から直接あの本が返されることはないのだ。 本自体はテッドが住処としていた部屋を探せば、もしかしたらあるかもしれない。しかし故郷を離れて旅する今、確認するすべはなかった。 *** ふと。シュリは、この本を手にした時のテッドの姿を思い浮かべる。 『わだつみのふね』の童話を知っていると言った彼は、本を手にした時、どんな表情をしていた? 受け取った本を懐かしそうに見つめて表紙を捲り、扉絵を見た瞬間。 「……笑っていた」 テッドは表情を緩めたのだ。 穏やかに。 あの時は知らなかったが、テッドは300年もの長い年月を生きて世界を歩いてきた。 ―――そんなテッドを穏やかな表情をさせた時間が、思い出が “
海 ”にはあったのだろうか? 群島諸国を旅したことがあると言ったテッドに、海の話をしてくれとせがんだ自分。 「海を、見たいな」 ポツリと呟いたシュリの言葉を耳にして、グレミオが驚いたように目を開いた。 「海、ですか?」 久しぶりに主の瞳の中に、行く先を真っ直ぐ先を見据える強い光を見つけ、グレミオは驚きの表情をゆるゆると嬉しそうにほころばせた。 「良いじゃありませんか、海。 行きましょう! 時間はたっぷりありますからね」 妙にうきうきとした様子になって元気よく答えたグレミオに、シュリは苦笑する。その一方、内心ですまない、と彼に頭を下げた。 故郷を離れてからは特に目的を持たず茫洋と、根無し草のように旅を続けてきた自分に、グレミオは文句、意見一つ言わずに、辛抱強くついて来てくれた。 久しぶりに沸き立つ高揚感に、自然とシュリの頬に笑みが浮かんだ。 *** *** テッド 君が話してくれた“海”を、見つけに行く――― *** * ** Crossing:0...END*** *** シュリ(1主)とセス(4主)の共演話の前章。……前ふりとなる文章です。 ちなみに少しばかり、以前書いた話し「御伽噺に生きる君」とリンクしていたり…。 2005/10/13*** |
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