***
***
***
*** *** *** *** ** ***Crossing : Intermission(閑話) @ * ****** 「あ。」 突然、青年が立ち止った。 「セス?」 数歩先へと進んでしまったシュリが、振り返って尋ねるように名を呼ぶ。 「シュリ君。あの町へ寄っていかないかい?」 セスの指差す方角に目を向ければ、小さな建物群。 一面に広がる麦畑を挟んだ向こうに見える屋根影を目に映しながら、あらかじめ頭に入れておいた周辺情報を思い起こす。商工で栄えている訳でもなく、名所・名跡といった場所がある訳でもない、ごく普通の小さな街だ。……そういえばガイドブックに何か名物があると書いてあったような気もするが、ぱっと思い出さないところをみると記憶に取り留められるほどの物でもなかったのだろう。 「特別見るような場所がある町でもなかったように記憶しているけれど――?」 呟くような語尾を聞き取れず伺うように隣を見るも、セスは目を細めたけで言葉を繰り返すことはしなかった。 シュリはちらりと本街道の先に続く山を見る。 それにこの本街道は大きな国と国を結ぶ大動脈で、多くの人々が行き来している。 少しの危惧から広がった不安の染みは、自然と旅行く足を急かす。 眉を顰めたシュリはしかし、街を眺める思いの他真剣なセスの眼差しを見て、反論の言葉を飲み込んだ。 ―――自分も時折そういう目になるときがあるから気付いてしまった。 碧い瞳は凪いでいて、彼の感情を窺い知ることは出来ない。 そうでなくとも、彼は旅の主導権をシュリに委ね、行き先をシュリの自由に任せながら旅の道連れとなってくれているのだ。 「町の名物―――――まんじゅう」 しばしの沈黙の後に呟いたシュリの声を聞き取り、セスが振り返る。その顔には満面の笑み。 「そうなんだよ、シュリ君。 あの町の名物はまんじゅうなんだ」 低くなっていくシュリの声に気付かないのか、セスは幸せそうに町の名物である饅頭について語り続ける。 しかも。また…… 「――また、僕は饅頭事に巻き込まれるのか?」 セスの言葉はもっともだったので、不本意ながらシュリは黙り込む。 一つ前に立ち寄った国に滞在中、早朝に出かけるセスに朝稽古のつもりでついていったら、実は有名饅頭屋の開店15分で売り切れると言う限定まんじゅう目当ての行列に並ぶ為で…と言う事があったのだ。 ムツリと、どこかすねた風な表情をするのは大人びたところの目立つ少年には珍しいことだ。 「実はね。あの町にまんじゅうを広めたのは俺なんだ」 突然のまんじゅう告白に呆けた処に、手にするガイドを覗き込んできたセスに、説明文横に描かれた絵を指差されて「このまんじゅうの焼印マークをデザインしたのも俺なんだけど、どうかな?」と聞かれて、どう返せと…? さすがのシュリも咄嗟に反応出来ずに口ごもる。 「他にも旅先の色々な場所にまんじゅうを伝えているんだけどね」と、妙に嬉しそうに地図上の点を指差し語るセスの言葉を耳に入れつつ、とり合えず出てきた言葉は… 「旅先でまんじゅうを広めて――世界地図をまんじゅうマークで征服しようとでもしているのか?」 時折、軽い冗談のはずが大真面目に真に受けることのある少年のそれらしき反応に、セスは笑顔のままたらりと汗を流した。 「べ、別に俺はまんじゅう伝道師をしているわけじゃないから。そんな目にならないでほしいのだけど――」 ボケをかましているくせに、的確に隠れたヒットポイントは突っ込む新・天魁星。…侮りがたし。 「ゴホンゴホン。 ええと。まあ、つまりはちょっと気晴らしがてら“寄り道”しないかって事だったんだけどね」 シュリは訝しげに首を傾げる。 「グレミオさんと落ち合う約束をしているから早く山を越えたほうが良いのかもしれないけど、待ち合わせの日には余裕をもっているから、半日や一日くらいどこかに立ち寄っても充分間に合うだろう? だから美味しいものでも食べにちょっと寄り道してもいいかなと思ったんだ」 視線を戻したセスが、つと少年の後ろを指差す。つられて後ろを振り向いたシュリの口から「あ…」と、声が漏れた。 眼前には、収穫近い麦畑が一面に広がっていた。 ――――ああ。そういえばいつの間にか季節は実りの秋を迎えていたいたのだな。 何故、今まで気付かなかったのだろう。 「…セス」 ぽんぽんと頭を叩かれ向けられた笑みが、誰かと重なる。 あれは――帝国将軍の息子としての教養を身に付けるためと気負って勉強に武術に、がむしゃらに打ち込んでいた頃。 顔も口調も性格も全然違うのに、セスの自分を見つめる瞳が親友のものに重なって見えて、ふいにシュリは肩から力が抜けた。 「そうだな。ガイドブックによると名物まんじゅうの評判は、遠方からわざわざ買いに来る者もいるくらい高いそうだし、グレミオへの土産にも丁度良さそうだ。 寄り道して買いに行くのもいいかな」 肩を落としたセスに、今度はシュリが笑い出した。睨みつけるも、少年がその程度で怯むはずも無い。 「さあ。日が暮れる前に行こうか」 朗らかな笑い声を立てて話す2人の声が、麦畑の小道の奥へとゆっくりと逸れて行く。 ** ** ** ――――時間はたっぷりあるから。 たまには寄り道もいいんじゃないかい? * ** Intermission:@...END*** *** この話し、一番上の2人の絵を描いていてふと思い浮かんだ小話で 今回はシュリのストッパー的な役どころのセスですが あと“寄り道”。 設定的には、この時期、シュリ(1主)はセス(4主)が真の紋章を持っていて ちなみに、1時間軸の頃にはセスの一人称は「俺」に変わっています。 2005/11/5*** *** |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||