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「セスを休ませる方法、ですか?」
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ケネスとポーラは、鸚鵡返しに聞き返して顔を見合わせた。

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***休息の技法


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突然、ケネスとポーラがリノの自室に呼び出されたのは夕食後の事だった。

オベル王の自室に呼ばれる用など、あまり自分たちに覚えはない。
あるとするならば“彼”関連で何かがあったのか――

急く心を抑えて訪れた部屋の戸を緊張しながら叩くと、扉を開けた娘のフレアが笑顔で2人を中へと導いた。
室内に入ると、応接椅子に座ったリノが「突然悪かったな」と気さくに声を掛けてくる。
その横には自分たちと同じようにリノに呼びつけられたらしいハーヴェイとシグルドの姿があった。
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「よおっ」と手を上げたハーヴェイと軽く頭を下げて挨拶してきたシグルドに会釈を返しながら、首を傾げる。

海賊2人組まで居ると言うことは、一体自分たちは何の用件で呼ばれたのだろう?
呼び出した主からは緊張感は見てとれず、緊急を要する問題が起こったようには見えないが…。
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疑問はお茶を用意しながら早々に本題を語りだしたフレアによって、すぐに答えを得る事になった。

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――――そして、冒頭の2人の言葉へと戻る。

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「ええ。最近セスは休みなして働いているでしょう?戦闘のない日くらいゆっくり休んだらって言ったのだけど、大丈夫だと笑ってかわされるばかりで…」
「こいつがどうにかセスを休ませてやれないかって言い出したんだよ。だが、俺たちが休むように言っても聞かないしな。 セスよくとつるんでいるお前達なら何か良い案が出るんじゃないかと、集まってもらったんだ」
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フレアとリノの話は唐突なものであったが、集められた4人も各々近頃のセスの様子には思うところがあったのだろう。すぐに頭を切り替え、話題に頭を巡らせ始めた。
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「あー。たしかに最近のセスの多忙っぷりは度が過ぎている気はしてたけどな」
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ガシガシと頭をかいたハーヴェイが、ドアを…その先を眇めるように目を細める。
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ここといくらも離れていない軍主の部屋では、今日もセスが書類の処理に勤しんでいる。
当初手伝う予定だったシグルドがリノに呼ばれたため、居合わせたヘルムートが代わりを申し出て、今ごろセスの部屋で2人、書類と格闘しているはずだ。
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「このままでは、いつか過労で倒れてしまうわ」
「だろうな」
「そうですね。…しかし『セス様を休ませる方法』ですか」
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部屋内に沈黙が落ちる。
ふと、思いついたようにポーラが口を開いた。
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「ハーヴェイさんたちに訓練所に誘っていただいく、というのはどうでしょう」
「思い切り疲れさせちまうって算段か? そりゃいいかもしんねーな」
「疲れているところに訓練所へ連れ出すのは酷かもしれないが、悪い考えではないとおも…」

「いいえ。訓練所でセスに不意打ち一撃かまして、昏倒させたところを寝所に強制送還。そのまま休息に入ってもらうのはどうかという提案しようとしたのです」
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――今、このエルフの女性は、表情も変えずにさらりと恐ろしいことを言わなかったか…?
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ポーラの意見に同意しかけたハーヴェイとシグルドは、ヒクリと口元を引き攣らせて固まった。
荒くれ集団で生きる海賊の自分たちでも、さすがにその考えには至らなかったかったぞ!?
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「そ、それはちょっと激しすぎやしないかしら?」
「おいおい嬢ちゃん。大人しそうな顔して言うこと過激だな」
「そうでしょうか?」
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たらりと冷や汗を流すオベル王家の父娘に、ポーラは不思議そうに首を傾げる。
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「セスは、こと自分の無理・無茶に関しては、なかなか他人の心配や忠告を受け入れませんから。少しくらい強引にする方が良いのです」
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――今の案って“少し”ってレベルか?
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4人が助けを求めるようにケネスを振り向くも、そんなポーラに慣れているのか彼は苦笑を返すだけだった。
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「ラズリルの騎士団に居る頃も…あの頃は特に…あいつを遊びに連れ出すのは容易じゃなかった。だから、俺たちは結構強引な方法を使ってましたよ。 海で泳いでいるところをタルが投網で捕獲して麻袋に詰め込み、街まで担いで運び出したりもしましたね。
そういえば、あるとき現場を垣間見たスノウに誘拐犯と間違えられて、騎士団が出張る大騒ぎにまで発展して団長の大激怒を食らったことがあったな」
「今となっては懐かしい思い出ですね」
「「………」」
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何アホーやってんだ、おまえ達。仮にも騎士団などという厳格で立派な集団に身を置いていた人間のはずじゃなかったか…?
喉まで出掛かった突っ込みを、彼らぐらいのお年頃には内容は違えどやはり似た様な馬鹿をやってきた経験のある大人衆は、寸で飲み込んだ。
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一人、フレアが「私、尋ねる人選間違えたかしら…?」と。遠い目になっている。
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騎士団時代からの友人である2人の意見に特に期待をしていたのだが。真面目で常識人、堅実なイメージをもっていた彼らの人物像が、今がらがらと音を立てて崩れた気がした。
さすがセスの流刑にまでついてきた豪胆な友人たち。ひと癖もふた癖もあったというべきか。
まったくもって侮りがたし
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「あ、貴方達は何か良い考えってないかしら?」
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フレアの期待の矛先は、くるり180°回って海賊2人へと縋るように向けられた。
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「セスは公的な席では結構素直なくせに、自分事に関しちゃ相当頑固だからなぁ。こうと決めたことに何か言って簡単に聞くとは思えねぇし……あ。酒場に引きずり込んで酔い潰しちまうってのはどうだ?」
――ハーヴェイ。 その提案はお前自身が酒を飲める機会を作ろうという算段ではないだろうな?」
「ななんだと!?古今東西、人を眠らせちまうのに酒を使うのはお決まりの手法だろうが!」
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核心をついたシグルドの突っ込みにどもりながらも、尤もらしい言葉を繰り出すハーヴェイ。
あごひげをなでて話を聞いていたリノは、しかし彼の意見に大きくうなずいた。
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「単純だが、効果的な方法ではあるな」
「……セスぐらいの年頃の子にお酒を無理やり飲ませると言うのは考えものだけど。そういう理由なら仕方ないかしら」
「だろ! ほらみろ、シグルド」
「別に俺も悪い意見だと言ったわけではないだろうが」
「そうさな。あからさまにあいつをターゲットにしていると気付かれないように、船全体で何か酒宴でも催して…」
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4人のやり取りを見守っていたケネスが、具体的なところに話に入っていきそうなのを見て、するりと言葉を差し込む。
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「残念ですが、その案は駄目です」
「「駄目?」」
「セスは酒に強いので、酔い潰すというのはかなり難しいと思いますよ」
「あいつ、酒に強かったのか?」
「飲んでいるところを見たことがないから知らなかったわ」
「それは意外ですね」
「強いったって、こちとら海の男だぜ。 お子様の酒豪レベルと一緒にしてもらっちゃあ困るんだがな」
「あいつは強いだけじゃなくて…。 いや」
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何かを言いよどむケネス。
その顔が瞬間、怯えた影を奔らせたように見えたのは目の錯覚か――
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「訓練生時代のときは…なぁ、ポーラ」。
「ええ。あのときは…ケネス」
「「?」」
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突然暗雲を背負って空ろな眼差しとなったのケネスとポーラはとても言葉を掛けられる雰囲気でもなく。結局、彼らが何を見て何を体験したのか問いただすことは出来なかった。
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「兎に角、やめたほうが身の為です」
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目線を逸らしながらもケネスはきっぱり・はっきり断言した。
「一体何なんだよ」――不満げに鼻を鳴らしたハーヴェイは、後日ケネスの忠告を無視してセスと酒の席を設けて、彼が言葉濁した部分を十二分に身を持って知ることとなるのだが……。 それはまた別の話である。
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「セス様が酒を飲んでいるところを見たことは無いから、てっきり弱いのか酒自体に興味がないのかと思っていたがな」
「そういえば、セスはお酒を飲まない理由として、軍の財政も豊かではないので微小でも自分が飲まないことによって酒に回すお金をきりつめることができたら、と言っていましたね」
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ポーラの言葉に、今度は王と海賊組の目が泳ぐ。
フレア王女の青い瞳がぎんっと鋭い光を帯びて父王を捕らえた。
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「そんな細かいところにまで気をかけて涙ぐましい努力をしていたなんて…なんていじらしいの、セスったら…。 お父様も少しは見習ってこれからはお酒の量を控えるようにしてもらわないと!!」
「い、いや。フレア。 酒は一種俺たちの活力剤であるからしてなぁ…」
「あーあ。やぶへびになってるぜ、王様」
「ハーヴェイ、シグルド。 貴方達海賊も、是非『ニルヤ軍節酒運動』に参加してもらうわよっ」
「はあ!?俺たちもかぁっ!」
「いつから軍全体の節酒運動まで発達したのです…!?」
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――この王女さま、目が本気だよ…っ!
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「……セスの節約はむしろ生活習慣だから、いじらしいと言うのは御幣がある気もするがな」
「そういえば、彼はラズリルの街のご婦人方とよく商店街のバーゲン情報や噂話の交換をなどもしていましたね。すっかり井戸端ネットワークの輪の一員になっていました」
「スノウが家柄と容姿から街のお嬢様方のアイドルと言われていたのに対して、セスは街の主婦(おばさま)方のアイドルだったからな」
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セスを休ませる方法を模索していたはずが、とんだ火の粉の飛散に遭って悲鳴を上げるリノとハーヴェイとシグルドの横で、すっかり冷めたお茶をすすりながら、ケネスとポーラがのほほんと言葉を交わす。
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「それにしてもさすが自ら哨戒にまで出る王女ですね。思いたったら即決・即行。牽引力がある。 もう『ニルヤ軍節酒運動』の具体案を出し始めていますよ」
「次代のオベル王国もきっと安泰だろうな」

「っんにゃろーっ。本当に節酒なんかになりやがったら、訓練所に引きずり込んで一発見舞うぐらいじゃ済まねえからな、セスっ!!」

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「ふ…ぶぇっくしっ!!」

ペンの走る音と紙をめくる音だけが聞こえる静かな部屋のなかに、盛大なセスのくしゃみが響き渡った。
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「なんだろう。突然悪寒が通り過ぎた気がする……」
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ずずず、スンっ。
鼻をすすりながら首を傾げたセスは、はたと、飛ばした唾と鼻水で書類のインクが滲みはじめていたことに気付いて、慌てて側にあった布で紙をはたく。

「風邪か?」
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選別していた書類から顔を上げて気遣わしげに眉をひそめたヘルムートに、大丈夫大丈夫と手をふって見せてから首筋をかく。
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『なんだかさっきからずっと首の後ろがちりちりするんだよなぁ』
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すぐ側の部屋で自分を話題の種に騒動が起こっているなど露知らず。 セスは、妙な気配だけを敏感に感じ取って、ぶるっと体を震わせた。

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To be continued …?




アホ話を書いてしましました。
……いえ、あほーなのは私の頭ですが(爆)。
しかも、ギャグ話に書きなれていないので、いまいいちテンポとかノリ具合が分かりません(苦笑)。

「休息の技法」と題名入れながら、結局何にも解決策が出ておりませんね(笑)。
本当はこの後に続きがあったのだけど、少々真面目な話になってきたので、一端ここできりました。
別に続けても構わなかったのですが、ギャグな部分はそちらでまとめたほうが中途半端にならないかなと思いまして…。(話自体ながくなってしまいましたし)
そのうち続きもUPされるかと思います。
……本当は続きの方の部分がこの話のメインとなるはずだったのになぁ(苦笑)。

ケネスとポーラ…私は彼らが好きですよ! 今回はなんともおかしなキャラ(?)に書き上げてしまいましだが、普段の2人はセスの事を本当に気に掛けてくれる貴重な友人です!!(一生懸命フォローしてみる/笑)

2005/9/11***
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