*** | *:*** 夢〜フレア〜*** *** ――こんな夢をみた。 ** ザ ザザザ…ッ *** 海原を駆けるオベル哨戒船 *** *** 少年の肩越しにデスモンドが目を見開いている姿が見えた。 ――と。お目付け役の青年の狼狽ぶりをこと細かに観察しているフレアの思考は逃避に近く。 *** 「なっ。何故王子のあなたが哨戒船なんかに乗りこんでいるの!?」 ようやく搾り出した追及は即時に切りかえされ、フレアはう゛っと言葉を詰めた。 「そ、それは…。 って、今は私の事ではなくて。 確かあなたは今日、明日と、天文学・海洋学の論文提出が控えているから忙しいって言っていたじゃない。 哨戒船が出航してから大分経つ。 「大丈夫。論文は両方とも今朝までに終らせて書置きと共に机の上に置いてきたし、明日の勉強分は船に持ち込んだからここでにやれば遅れはとらないよ。 ほら、と取り出した文書の入った筒をフレアの前で振って、少年は口元を上げた。 「準備は万端。後はこの船に少しだけ足を伸ばしてもらえば、島へは余裕を持って着く事ができる」 フレアが顔を引き攣らせるのを尻目に、少年の言葉は更に続く。 「最近忙しくてゆっくり航海を堪能できる機会なんて無かったから、早く船に乗って海に出たかったんだ。 頬を撫でゆく心地よい潮風に目を細めてしれっと言ってくれた弟の顔を、目を丸くして見つめる。 「そういう訳でよろしく頼むよ。フレア姉さん」 ―――嗚呼、そうだった。 お転婆だ、王族らしくない行動を取る王女だとよく言われる自分であるが、本当の意味で突拍子も無いことをやらかすのは、真面目で聞き分けが良いと世間一般的に認識されている、この王子なのだ。 何食わぬ顔で時々大それたことをやらかしてくれる弟の方が、よひど性質が悪いと思う。 (…本人自覚してやっているのか無自覚なのか、いまいいち判断がつかないあたりも曲者だ) 哨戒任務を途中放棄して、間に合うかどうか解らないが王子を一端オベルへ返すのか、それともこのまま哨戒任務を続けながら、会議の島まで運ぶのか―― 「あなたって子は……確信犯っ!」 己の普段の行いは棚に上げて、フレアは心底呆れたように声を上げた。 空と海の境目で。 普段、胸をすくようなその笑顔は、しかし今は憎らしいばかり―― 「そうかな? 僕は“先人”に倣ったまでだけど」 フレアはきょとんと目を瞬く。 「リノ王やフレア様だけでなく、とうとう王子まで……。 はあぁぁ。これもオベル王家の血筋と諦めるしかないのでしょうか」 疑問符を浮かべるフレアの横で、弟王子が盛大に噴出した。 『モンスターだ!!』 「「…っ!」」 反対甲板から聞こえてきた叫び声に、3人の顔にさっと緊張が走る。 「モンスターが…! お2人とも早く中へ逃げてください!」 引きとめようと追いすがるデスモンドを振り切って武器を取りに船内に足を向けたフレアの前に、少年が立ちふさがった。 「止める気かしら?そんなの――」 フレアを引き止める加勢がきたと喜んだのもつかの間。王子の言葉にデスモンドは堪らず悲鳴を上げた。 「大丈夫だよ、デスモンド。 フレアは僕が守る」 朗々と。 王女の威厳と誇りに満ちた声が響き渡る。 「フレアならそう言うと思った。 はい、弓と矢」 一体何処に隠し置いていたのか。手渡された愛器を見つめて呆然とするフレアに、弟は不敵な笑みを一つ残して身を翻した。 「…セッ。 ちょ、ちょっと待っ…!」 フレアは我に返り、駆け出した少年の後を慌てて追う。 脇を通り抜けたのは、武器を手に駆ける、自国の王子と王女―― 居る筈の無い王子の存在と守るべき王女の戦地への突然の出現に慌てふためく兵士達をそのままに、2人はモンスターの前へ躍り出た。 「フレアは後ろから援護を!」 ***
*** モンスターへと向かう一瞬、 その鮮やかな残光は、私の記憶に刻み込まれた *** *** NEXT>・・・・・・・・・・・・ 2006/01/27・・・・・・・・・・ |
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