「あんたが皆を守っている『力』は、なにも剣や魔法や
…その紋章だけじゃないんだ

本当に皆の力になってやりたいのなら

陰で一人、剣や魔法の鍛錬に励むよりも
皆の輪の中に入っていって“言葉”をかけてやることだね

時には“言葉”が、剣や魔法以上に『力』になる事だってある」


の唄**


*

+++ 2 +++

*

「セス、この後はどうするつもりですか?」
「民間船を装って、油断して乗り移ってきた海賊たちを捕らえる。という当初の案を実行するには、相手が多すぎる」
「敵さんは一艘じゃないしね」
「“逃げさせてもらっている”状況もいつまでも続くわけではないから、のんびりもしていられないな」

三人は軽口を交し合っているが、
現状は深刻だった。

逃げるこちらの船を付かず離れず追走してくる、海賊船。
恐怖感を煽って楽しんでいるように見えるのは、気のせいではないだろう。

三艇の海賊船は上手く連携をとって退路を塞ぎながら追走し、追い立ててくる。
遮るものもない広大な海上である筈なのに、今セスたちが乗る船は狭い路地裏を追いつめられているような状態であった。

「どこかで一戦は交える事になると思う」
「船が海戦に耐える仕様で助かりました」
「ホント。船を用意してくれた王様に感謝だよ!」

二人の言葉に、セスは思わず苦笑を漏らした。

そうなのだ、今回の船――
一見商船に見えるが、装甲は立派な戦闘艦である。
何処で話を聞いたのか、セスが海賊退治に行くと知ったリノがそれとなく手を回して準備した船だった。
しかも水夫や航海士の面子は、セスがオベル王の命で哨戒任務に出るとき共に船を動かしてきた屈強な者たちである。

用意された船を見たセスは唖然とした。

『……僕はこれから何をしに行くんだったかな?』
『うわ。立派な船が準備できてよかったな、セス』

ギルドが仲介で用意してくれる船とは比べ物にならないよ。などと暢気な感想をのたまうキリルをおいて、慌てて手回しをした人物を捕まえ、どういうつもりかと問いただせば――

『船もたまには動かしてやらんと傷むし、使わなければ勿体無いだろう。
若いもんが遠慮するなって。はっはっは!』

豪快に背を叩かれて船上に放り込まれ、(乗船を躊躇っていたら、本当に投げ込まれた…)そのまま出港と相成ったのだった。

「あの人も何を考えているんだ」

呆れ返って言葉もないセスだった。
しかし今となってみれば、強固な船と航海慣れした人員を用意してくれたリノに感謝である。
絶対不利の状況にあって、命運を共にする船員たちの目には強い光。絶望感は無い。
これならば…

――勝敗はゼロではない」

この場合の“勝ち”は、海賊船団から“逃げ切れた”ということだ。
さて、どう現状を打破しようかと、セスは目を眇めて後方の海賊船団を見つめた。

「かなり統制のとれた動き。彼らはどこかで訓練を受けた経験を持つ、軍隊崩れの者たちかもしれない……」

微細な動きも逃さぬようにと見つめていたセスの頭に、ふいに疑問が湧き上がる。

――おかしいな」
「セス?」
「これだけの船と戦力を持った海賊集団の存在を、キカさん達は知らなかったのか?」

考え込むように視線を下げて呟いたセスの言葉に、ポーラとジュエルは顔を見合わせた。

「言われてみれば…そうだよねェ」
「同じ海賊商売敵の事を、彼らが情報として持っていないとは考えにくいですね」
「キカさんたちもあの場にいたよ? なんで教えてくれなかったんだろう」

キリルがセスを呼び止めたのはキャラバンの側だった。
お陰で多くの見物人に囲まれる羽目になり、気恥ずかしさも感じていたのだけれど…その中にキカ達グリシェンデ号の面々も、いた。

―――海賊の話題が出た時に、シグルドたちは何か言おうとしていなかったか?

ふと視線を感じてセスが海賊団の方へと目を向けたとき、彼らは何かを言いたげに口を開きかけた。…が
言葉を発する前に、先頭にいたキカが彼らを促して踵を返してしまったので、そのまま何も言わずに去ってしまったのだ。

気になったが、話しの途中で追うことも出来ず。
改めて話を聞こうと思ったものの、その後は航海の準備に忙殺されて、やっと時間がとれた時にはキカたちは既に海賊島に戻った後だった。

記憶を手繰り寄せたセスは、僅かに眉を顰める。

―――彼らは海賊たちについて知ってたんだ。
だけど、キカさんはそれを伝えるのを遮るような態度をとって……何故だ?

特別隠すような事とも思えない。
後にセスたちが危険を被るのが解っていた筈なのに、忠告なしというは、義理深いキカの流儀らしくなかった。

どこか引っかかりを覚えつつ。
気に掛かるといえば、もうひとつ

「キリル君を介して再会してからこのかた、キカさんと話していると、時々違和感を感じるのだけどなぁ。 何だろう…」

「え、ええ〜?なんでェ!?」

突然あがったジュエルの素っ頓狂な声につられて、内の思考に潜っていたセスは我に返る。
ばっと顔を跳ね上げた先に“それ”を見つけて、大きく目を見開いた。

優美な船体に波を砕かせ、飛沫をたてながらこちらに近づいてくる一艘の帆船。
風に乗りあっという間に近づいてきた船の上にいたのは―――

「援護に来たぞ、セス」

波を砕く船の揺れをものともせず、悠然と甲板に立つ……キカだった。


06.8.15

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