「お前は、他人に対してはあんなにも器用に言葉を与えられるくせに、

なんで……自分自身のことになると、鈍いんだ?」


の唄**


*

+++ 3 +++

*

口をぱくぱくとさせるジュエル。
目を瞬かせるポーラ。
そしてセスは――

驚き一過後、合点がいったっとばかりに、深く、ふかく溜息をついた。

「やはり、今回の海賊の事を知っていたんですね。
そして何も言ってくれなかったのは―――こういうことだったんですか」

事前の“忠告”ではなく、グリシェンデ号をひっさげ“援護”に現れたキカ。
ご丁寧に腹心の部下たちも勢ぞろいでの登場である。
普段と変わらぬように見えて、何処となく彼女の表情は楽しげだった。

後ろに控えるハーヴェイは、ハトが豆鉄砲を食らったようなセスたちの様子にしてやったりの得意顔だし、隣のシグルドも幾分申し訳なさそうにしているものの、相棒と似たりよったりの表情である。

「アレは最近出てきた海賊団なんだが、人数と物量に物を言わせて勢力を誇示して海賊道義も持たない連中でね。丁度五月蝿く思っていたところなのさ。
……ギルドの依頼で海賊退治に来たそちらの船長殿。目的を同じにする船同士、共同戦線を張るというのは、どうだ?」

―――してやられたっ

キリルの話を聞いた時から、キカはギルドの依頼に便乗してセス達の力も借り、目障りな海賊団を掃討するつもりだったのだ。
もしかしたら、――もしかしなくても、大仰に船と人員を用意したリノもグルだったのだろう。

「僕にギルドの依頼を受けさせて、共に戦う状況を作る。
こんなまどろっこしい方法をとらなくても、最初から言ってくれればいいでしょう」
「フフッ。 久方ぶりの緊張感で少しは海戦の勘も戻ったのではないか?」
「理由はそれだけですか?」
――めったなことでは、今のお前を海上戦闘に引っ張り出す事は出来ないからな」

昔の仲間たちの中には、戦いの表舞台からようやく離れられたセスの心情を慮って、彼を戦闘の矢面にひっぱり出す輩を快く思わない者も多い。
セスは周りが思っているほど嫌々に身を投じたわけではないのだが、本来戦いを好む性質でもない。必要時以外、自ら前面に出ることはほとんどなかった。

「事の流れに任せてみたら意外に簡単だったな。 お前は、結構キリルの“お願い”に弱いだろう?」
「…う゛っ。 あの裏表ない目で直球に頼まれると、どうも…って、僕のことはいいです!
キカさんこそ、颯爽とした見事な登場。海賊よりも正義のヒーローの方が似合うのではないですか?」
「ならば、さしずめお前は“悪漢に追われて正義の味方の助けを待っていたヒロイン”といったところだな」
――――遠慮させて頂きます」
「では、共に“悪漢”に立ち向かうか」

ちょっとばかり恨みがましく言ってみれば簡単に切り返されて、セスは撃沈した。
どうも再会してから、キカは以前よりも自分に対して饒舌で容赦が無いように感じるのだが……

―― あ…

「もしかして。 あの戦いの後、僕が死んだことになったまま音信不通にしていたのを怒っている……の、か?」

ぼそりともらした独り言は、風に乗ってキカの耳に届いたらしい。
彼女は緩やかに形の良い口角を上げた。

「何のことだ?」

いつもと変わらぬ涼やかな表情にみえて、醸し出す空気は氷点下の剣呑さを帯びている。
前面を塞ぐ海賊船団よりも、機嫌を損ねているらしい大海賊の女頭領のほうが、よほど恐ろしかった。

「今のって、クリティカル・ヒットってやつじゃない?」
「セスの自業自得ですし」

隣でひそひそ言い合うジュエルとポーラに言葉を返すことも出来ずに、セスは背筋に冷たい汗をだらだらと流していた。

「海賊団が…!」

船の見張り役が上げた叫びに我に返って、振り返る。

後方では、名高きグリシェンデ号の登場に浮き足立っていた海賊団たちが落ち着きを取り戻したのか、こちらに進路を向け動き始めているところだった。

「来るか」

敵の行動を見極めるように、セスは目を細める。
瞬時に鋭さを纏った横顔を見つめて、キカは一呼吸後に口を開いた。

「共同戦線の艦隊指揮はお前が執れ」
「…!」

驚いたように振り返った海色の双眸を、キカの瞳が射抜くように見返した。


06.8.20**

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