* 「ジュエルは、久しぶりの海上戦闘で怖くはありませんか?」 「頑張ろうね。 帰ったら皆でカニパーティーだ!」 ** 力の唄** * +++ 4 +++ * 交差する、二対の瞳。 セスの様子窺う乗組員たちも、キカの後ろに控える海賊達も、息を潜めて両者のやり取りを見守っていた。 先に沈黙を破ったのは――セスだった。 「分かりました」 一度も視線を逸らさないまま答え、キカも何も言わずにひとつ肯く。 再び、時間が動き始めた。 「…セス」 気遣わしげに名を呼んだポーラとジュエルを振り返ったセスの眼に、躊躇いや迷いは無い。 「迷っている時間は無い。連中は既に動き始めているから」 海賊船団はこちらの2艦を囲み撃ちにするつもりだろうか。 「数の上では3対2でこちらが不利には変わりない。 だけど…」 セスの声は決して大きなものではなかったが、双方の船上の者が誰一人言葉を発しない中で 「――勝機はこちらにある」 * * 「風が変わった…な」 海上を走ったぴんと張り詰めた空気に、キカは眼を細めた。 「腕が鳴るぜっ。さっさと白兵戦になってくれねーかな」 ハーヴェイは子供のように目を輝かせて、ぱしりと手を打ち鳴らす。 「久しぶりの艦隊戦になりますね」 キカがちらりと周囲を見やれば、誰もが同じような目をしている。 * キリルが持ってきたクエストが、目障りな海賊を潰すのに丁度良い機会になると思ったのは本当だけれど。 久しぶりにセスの艦隊指揮する姿を見たくなって―― 自分でも珍しく回りくどい方法を使って、彼を海戦の矢面に立たせたものだとキカは苦笑する。 セスの伸びのある声が発する号令のもと駆ける戦場は、不思議と爽快で。 血なまぐさい戦いの中、血の匂いに酔ったからではなく気分が猛る。 そして今も。 「これよりグリシェンデ号はセスの艦と共同戦線に入る! 遅れをとるな!」 『オオォォォーっ!!!』 頭領の鋭い掛け声と海賊達の雄叫びが、海上を揺らした。 * * グリシェンデ号の吼え声を肌に感じながら、セスはゆっくりと自船の乗組員たちを見回す。 “こういう目”を、よく知っていた。 『彼らの気持ちは今、“戦う方”へ向かっている。……だけど、まだ第一歩を踏み出しては、いない』 * ―――連中は待ってるんだよ。あんたの言葉を * ふと、セスの耳の奥で、懐かしい人の言葉が蘇る。 * 「……さっきまでは、逃げる事を最前の目的にしていたけれど。 今は違う」 * ―――あんたのひと声が みんなの気持ちを決めさせる ―――そして、背を押し行動を起こさせるんだ * 自分の“言葉”を待つ幾つもの視線を感じながら、深呼吸の後。 力強く声を上げた。 「我々が目指すのは 『 海賊の討伐 』 だ!」 * セスの言葉に、「待ってました!」とばかりにジュエルは飛び上がり、ポーラはにこりと笑って力強く肯く。 昂る気持ちは不安ではなく――期待 眩しい視線を受けながら、セスは高らかに声を上げた。 * 「反撃を開始する!」 「「「 おおおォォーーー!!! 」」」 * セスの声と、それを追って上げられた皆の声が重なり合い、 海を轟かせるその声はまるで * ――――力の唄 * END*** 06.8.24** |
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